悪いのはいつも顧客です: オンラインミュージック用 DRM のためのユーザガイド

(原文: The Customer Is Always Wrong: A User's Guide to DRM in Online Music)

いくつかの代替案

DRM のない音楽をオンラインで購入したいとお考えでしたら、 以下のようなサービスが MP3 を販売しています:

emusic
Audio Lunchbox
Bleep
Live Downloads

オンラインで音楽を購入するための選択肢は徐々に増えていますが、 購入した音楽の使用方法に関する、迷いやすい茂みもまた増えています。 あなたはそのサービスが約束するよりもずっと少ないものしか受け取っていないのかもしれません。

多くのディジタル音楽サービスでは、ディジタル著作権管理 (DRM) を使用しています。 これは「コピー防止機能」とも呼ばれ、あなたが自分で使う携帯プレイヤーを選んだり、 リミックスを作成したりすることを禁止しています。 CD に焼くなどの伝統的な利用方法のために DRM 機能を破るという考えは捨ててください。 DRM を破ったり、DRM を破るためのツールを配布すると、たとえ違法な使用をまったくしていなくとも ディジタル・ミレニアム著作権法 (DMCA) 違反に問われる恐れがあります (訳注: DMCA は米国の法律ですが、日本にも同様の規制があります)。

言いかえれば、この素晴らしき『認定つきミュージックサービス』の新世界では、 法律を守っている音楽ファンは、しばしば自分たちが古い CD の世界 (あるいは少なくともレコード会社が DRM をつかって CD をも 無力化しはじめる前の世界) で払っていた金額よりも少ないものしか受けとっていません。 残念なことに、これらの音楽配信サービスでは顧客を引きつけるため、 彼らが課そうとしている制約を巧妙なマーケティングによってわかりにくくしています。

このガイドでは、これらメジャーなサービスの営業用メッセージを“翻訳”して、 うわべのお題目ではなく、その取り引きの本当のところをお伝えします。 DRM と DMCA があなたの権利にどのような危険をもたらすのか理解しておけば、 あらかじめきちんとした情報を知ったうえでの購入決定に役立つからです。 DRM のはめられた音楽をどのサービスから買うにしても、以下の例を考慮して、 そのサービスがあなたの購入した音楽を合法的に利用する権利をどのように制限しているか 理解するようにしてください。

Apple iTunes Music Store はこう言っています...

iTunes Music Store
"永遠プラス 1日間、所有できます" iTunes Music Store なら、購読サービスのごたごたや音楽とは関係のないうるさい広告に わずらわされることはもうありません。たった 99セントで、高品質 AAC 形式の音楽ファイルが あなたの手に...

ITunes Store
"たった 99セントで、しかも太っ腹な個人使用の権限つき" iTunes Music Store ならあなたの欲しい曲をわずか 99セントで検索し、購入し、ダウンロードできます。 個々の楽曲を個人的な使用のために CD に焼くのは何回でも自由ですし、何台の iPod でも…

これが現実です: あなたはそれを買いはしましたが、それはまだ彼らが所有しているのです。

想像してみてください。タワーレコードがあなたに CD を売り、数ヶ月したある日、 あなたの家のドアをノックし、その CD をあなたのカーステレオでは再生できないものに取り換えるのです。 それでもあなたはまだその CD を「所有している」と思いますか? ちょっときついですよね?

しかし Apple はあなたが iTunes Music Store で購入した音楽の利用方法について、 いかなる時でも変更を加える権利を留保しています。たとえば 2004年4月に、 Apple は DRM を変更して、同一のプレイリストを以前はユーザが最高 10回まで CD に焼けていたのを、 最高 7回までしか焼けないよう決定しました。 あなたが所有する音楽を合法的に個人コピーできる能力を、このサービスはどこまで制限しようとするのでしょうか。 その答えは Apple しか知らないのです。

所有をあらわすもうひとつの明白な特徴として、 あなたは自分の所有物を他人にあげたり売ったりできる権利をもっています。 これは "first sale" と呼ばれており、この権利は (訳注: 米国の) 著作権法で明示的に保護されています。 しかし Apple の DRM はこの first sale を妨害しています — ジョージ・ホテリング氏 に聞いてみてください。 かれは 1曲を売りわたすのに自分の iTunes Music Store アカウントのログイン名とパスワードをあげてしまわなければ なりませんでした。

以下の表に見るように、Apple の DRM は あなたが自分の“所有”している曲に対してできるはずの多くのことを制限しています。 他の多くのア・ラ・カルト形式の (1曲ごとに購入できる) ダウンロードサービスが 同様の制限を課しています。彼らのどこが“太っ腹”なのでしょう。

その他の iTunes Music Store の制限
  • バックアップコピーの制限: 曲は 5台のコンピュータまでにしかコピーできません。
  • 他の形式に変換できない制限: 楽曲は Apple DRM のついた AAC形式でのみ販売されます。
  • 携帯プレイヤーの互換性に対する制限: iPod とその他の Apple 製品のみです。
  • リミックスの禁止: 編集、抜粋などの方法で曲の一部をとり出すことはできません。

Microsoft はこう宣伝しています...

これは Windows Media Audio の DRM 対応の "Plays for Sure (確実再生)" マークです:

Microsoft
"音楽を選ぼう。プレイヤーを選ぼう。それでバッチリだ。" あなたのプレイヤーと音楽がぴったり…(中略)…することは、音楽を選んで…(中略)… PlaysForSure (確実再生) ラベルのついている豊富な商品の中から… (中略)

Microsoft
"マークさえ合っていれば... 面倒はいっさいなし!" マークを合わせましょう。プレイヤーとオンラインストアにこのマークがあれば、この 2つは 相性ピッタリです。面倒はいっさいありません。ただもう、バッチリなのです!

これが現実です: DRM ありの世界では、ほんとうに「確実再生」なものなどありません。

あなたが音楽 CD に投資した場合、時間がたつにつれて、そこからあらゆる種類の配当が生まれます。 MP3 にリッピングしたり、自分だけの着信音をつくるなど、サードパーティが新しい使い方を 可能にしてくれるからです。しかし DRM をはめられた音楽を購入した場合、 あなたは DRM 業者から使っていいと言われた、ある限られたソフトウェアとプレイヤーの一群しか 使えなくなってしまいます。

多くのオンライン・ミュージックストアではマイクロソフト社による Windows Media Audio (WMA) の DRM で 包装された曲を売っています。が、この形式はすべてのプレイヤーがサポートしているわけではありません。 あなたはプレイヤーの "Plays for Sure (確実再生)" のラベルをチェックしなければならず、 それでもなお、Napster To Go で送られてくる曲のような WMA コンテンツの 「購読 (サブスクリプション)」機能をサポートしている機種はわずかです。 これでは「面倒いっさいなし」とはちょっといえませんね。

マイクロソフトのキャンペーンの要点は、有限な対応製品の宇宙であなたを安心させることにあります。 しかし、もしあなたが後になって WMA と非互換の iPod に乗り換えたいとしたらどうでしょう。 あるいは、マイクロスソフトがライセンスしていない、さらにすぐれた製品に乗り換えたいとしたら? あなたは自分の音楽コレクションを買い直すはめになるでしょう。MP3 とはちがって、 DRM のはめられた音楽を別の形式に変換することは簡単にはいかないのです。 同様に、別のミュージックストアに代えた場合、あなたは新しい対応プレイヤーを 買わなければならなくなるかもしれません。そして、もしそのミュージックストアと プレイヤーがあなたの DRM サポートをやめた場合、あなたは完全にお手上げ状態になってしまいます。

RealNetworks の広告はこうなっています...

Real Networks
"音楽選択の自由を。" RealNetworks では、音楽再生プレイヤーと、プロプライエタリな音楽ダウンロードサービスを 縛りつけている鎖をたち切るために“選択の自由”キャンペーンを開始しました。 私たちは情報をお伝えし、そして、あなたの興味をかき立てます。

これが現実です: RealNetworks は真の選択の自由など提供していません。

RealNetworks は激しく不満の声をあげています。なぜなら Real Music Store で 購入した曲は Apple の iPod に転送できなかったからです。Real のいう“選択の自由”キャンペーンとは、 消費者は自分たちが選んだプレイヤーで音楽を再生できるようになるべきだということです。

これはまさしくあなたが望んでいることですが、これは Real やその他の DRM で包んだ楽曲を売っているサービスから 得られるものではありません。Real のユーザは、Real のプロプライエタリな DRM やマイクロソフトの Windows Media Audio (WMA) の DRM を扱えるようライセンスされた、ソフトウェアとハードウェアの狭い選択肢の中に 押し込められてしまいます。Creative の Sound Blaster ワイヤレス・ミュージック を使って、 家じゅうで音楽をストリーミングさせたいって? お気の毒ですが、 それは Real の音楽ではできません。

あなたの持っている CD のコレクションは、時間がたつにつれて価値あるものになっていきます。 それはサードパーティーが新しい使い方 -- たとえば MP3 にリッピングしたり、自分だけの着信音をつくったりなど -- を可能にしてくれるからです。Real から買った音楽では、このようなことはありません。たとえあなたが今日 Real の DRM や WMA に対応しているプレイヤーをもっていたとしても、明日になって Real やマイクロソフトがライセンスしていない、 さらに優れたプレイヤーを買いたくなったらどうしますか? あなたは自分の音楽コレクションを買い直すはめになるでしょう。MP3 とはちがって、 DRM のはめられた音楽を別の形式に変換することは簡単にはいかないのです。

あるいは、もし Real がある日ディジタル・ミュージック事業をあきらめてしまい、その形式が すべてのプレイヤーでサポートされなくなったら? あなたが 10年前に買った CD は、今日買える すべての CD プレイヤーでまだ聴くことができます。しかし、同じことが Real の音楽についても 言えるとはかぎりません。

その他の Real Music Store の制限
  • バックアップコピーの制限: 曲は 3台のコンピュータまでにしかコピーできません。
  • CD に焼く回数の制限: 単一のアルバムあるいはプレイリストは 5回までしか CD に焼けません。
  • 一度買った曲を誰かに再販することはできません。
  • リミックスの禁止: 編集、抜粋ほかの方法で曲の一部をとり出すことはできません。
  • DRM の制限は変更される可能性があります… 「当ダウンロードサービスの利用規則に違反された場合 — DRM はダウンロードサービスを使う機能を無効にすることがあります」 「Real はいかなる時点においても、[利用規則を定めた] この規約をその裁量により変更することがあります」

これが Napster 2.0 の約束です...

Napster
"すべての欲しい音楽を、お好きなやりかたで。" 快速、安全、そして合法的。

これが現実です: 音楽を "お好きなやりかたで" — あなたがそれに何度も何度も支払い続けるかぎりは。

Napster 2.0 や同様の多くのサービスはすばらしいミュージック・ジュークボックスを提供します。 しかし、コインのつまった袋をもっていったほうがいいでしょうね。 彼らは DRM を使って、あなたがいままでのように音楽を自由に使うことに対して 余計な課金をしてきます。

月額の購読料を払っていれば、 "Napster Unlimited 音楽レンタルサービス" はあなたに そのカタログのすべてから好きなだけダウンロードしたり、ストリーミングする能力を与えてくれます。 もし月々の料金を払わなかった場合、この DRM はダウンロードされた音楽を再生不可能にします。

しかし、たとえあなたの購読が続いたとしても、DRM は「お好きなやりかたで」音楽を使わせるようには してくれません。携帯プレイヤーに音楽を移したいって? その場合はさらに月額 5ドルが Napster To Go のために必要です — しかも、それを再生できるのは、 WMA で保護された購読制コンテンツを再生できるようライセンスされたソフトウェアや プレイヤーだけです。これには iPod やその他のほとんどの携帯音楽プレイヤーは含まれません。 曲を CD に焼くのはどうでしょう? Napster の DRM は、あなたに追加の 99セントを要求します。 もし 3台以上のコンピュータに音楽をコピーしたかったら? さらに別の月額使用料を 払ってください。あるいは 1曲ごとに 99セントです。そして、もし 自家製映画のために音楽の一部を使いたかったら? あきらめましょう。— この DRM ではそれは完全に禁止されています。

Napster による制限の説明

Napster 2.0 は 3つのサービスに分かれています。 これらに共通するものは…複雑で、束縛的な DRM です。

Napster Light
(一曲ごとの購入、永続的な "所有権" サービス)
  • バックアップコピーの制限: 曲は 3台のコンピュータまでにしかコピーできません。
  • 音楽 CD に焼く回数の制限: 同一のプレイリストは 7回までしか CD に焼けません。
  • 対応する携帯音楽プレイヤーの制限: 保護された WMA プレイヤーのみです。iPod は含みません。
Napster Unlimited
(ひも付きの、ダウンロード "レンタル" サービス)
  • レンタルの制限: 購読期間が過ぎれば、曲は再生できません。
  • 複数のコンピュータで使用する制限: 楽曲は 3台のコンピュータまでにしかコピーできません。
  • CD には焼けません。
  • 対応する携帯プレイヤーはありません。
Napster To Go
(携帯プレイヤーのための購読 "レンタル" サービス)
  • 対応する携帯音楽プレイヤーの制限: 「携帯サブスクリプション」を再生できるプロテクトされた WMA プレイヤーのみです。 iPod は含みません。
  • 複数の携帯音楽プレイヤーの制限: コンテンツはいちどに 2台のプレイヤーまででしか再生できません。
  • レンタルの制限: 購読期間が過ぎれば、曲は再生できません。
  • 複数のコンピュータで使用する制限: 楽曲は 3台のコンピュータまでにしかコピーできません。
  • CD には焼けません。
これら 3つの Napsterサービスに共通するもの:
  • 他の形式に変換できない制限: 曲はプロテクトされた WMA形式でのみ利用できます。
  • 一度買った曲を誰かに再販することはできません。
  • リミックスの禁止: 編集、抜粋などの方法で曲の一部をとり出すことはできません。
  • DRM の制限は変更される可能性があります: 「Napster はいかなる時点においても利用規約を変更する権利を留保しています。」

日本語訳: 新山 祐介 (email: yusuke at cs dot nyu dot edu)。 原文は 2005年9月4日時点のもの。 原文ライセンスは CC-帰属-非営利 1.0。 日本語訳のライセンスも原文と同じです。

訳者より: "pitched a fit" の日本語訳、およびその他不完全な部分や誤訳について、 ある方から匿名でご指摘いただきました。お名前は存じませんが、感謝いたします。(2005/9/11)